「易」と聞くと、占いや筮竹を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、易の世界はそれだけではありません。東洋医学、特に中国で発展してきた中医学の背景をたどっていくと、そこには『周易』の思想が深く関わっていることが見えてきます。
今回は『周易と中医学』という書籍を参考にしながら、易と中医学がどのようにつながっているのかを、専門用語をできるだけ減らしてご紹介します。
中医学の背景には「易」の思想がある
中医学では、人間の身体だけを切り離して考えるのではなく、自然界の変化や季節、陰陽のバランスなども含めて身体を見ていきます。
『周易と中医学』では、中医学の基礎となるさまざまな理論の背景に、『周易』の考え方があると説明されています。
陰陽、五行、気の変化、臓腑の考え方、全体を一つとして見る思想などです。
つまり易は、病気を直接治すための医学書というよりも、「生命や自然をどのように見るのか」という思想的な土台の一つになっていると考えるとわかりやすいでしょう。
① 陰陽――すべては対立しながら支え合っている
易を理解するうえで欠かせないのが、陰と陽です。
昼と夜、明と暗、動と静、外と内、熱と寒。
一見すると反対に見えるものが、互いに関わりながら一つの世界をつくっています。
中医学でも、身体を陰と陽のバランスから考えます。どちらか一方だけが大切なのではなく、両者が適切に働き、調和していることが重要です。
「反対のものが対立しながらも、互いを必要としている」という見方は、易と中医学に共通する大きな特徴です。
② 易は「変化」を見る学問
「易」という言葉には、変化という大きなテーマがあります。
自然界は常に変化しています。朝になり、昼になり、夜になる。春から夏へ、夏から秋へと季節も移っていきます。
人間の身体も同じです。
体調は一日中同じではありませんし、年齢、季節、生活環境によっても変化します。
そのため中医学では、身体を固定されたものとしてではなく、常に動き、変化している生命として見ていきます。
ここにも、「変化を読む」という易の考え方との共通点があります。
③ 五行――自然と人体を同じ法則から見る
中医学では、木・火・土・金・水の五行も重要な考え方です。
五行は、単に五つの物質を意味するものではありません。
自然界にあるさまざまな働きや変化を、五つの性質に分けて理解するための考え方です。
そして、その関係を人体にも当てはめて考えます。
自然界と人間を別々のものとして考えず、同じ大きな法則の中にあるものとして見る。
この視点も、『周易』と中医学のつながりを理解するうえで重要です。
④ 「気」は常に動き、循環している
東洋医学では「気」という言葉をよく使います。
ここで大切なのは、気を一か所に固定されたものとして考えないことです。
上がる、下がる、出る、入る、巡る。
中医学では、こうした気の動きや循環を重視します。
『周易と中医学』では、『周易』にある循環的な運動観と、中医学における身体の循環的な見方との関係も取り上げられています。
季節が巡り、昼夜が巡るように、生命活動にも一定のリズムがあります。
身体を「止まっているもの」ではなく、「巡り続けているもの」として見る。
これも東洋医学を理解するうえで、とても大切な考え方です。
⑤ 部分だけでなく「全体」を見る
私がこの章を読んでいて、特に興味深いと感じるのが「全体を見る」という考え方です。
中医学では、一つの症状だけを切り離して見るのではなく、身体全体の状態や生活、季節、環境なども含めて考えます。
たとえば、身体の一部分に変化が起きても、それは全身の状態と無関係ではないという見方です。
『周易と中医学』では、『周易』の六十四卦を一つの大きな体系として見る考え方と、中医学の全体観・システム的な見方との共通性が説明されています。
部分を見ながら、同時に全体を見る。
これは東洋医学だけでなく、人間を理解するときにも重要な視点だと私は感じます。
⑥ 天・地・人――人間も自然の一部
易には、天・地・人という考え方があります。
人間は自然界から切り離された存在ではなく、天地の間で生きている存在です。
暑くなれば身体も影響を受け、寒くなれば身体の反応も変わります。季節、気候、生活環境の影響を受けながら私たちは生きています。
中医学でも、人・自然・社会を含めて人間を捉える考え方があります。
人間だけを自然の外側に置かない。
この見方にも、易と中医学の深いつながりを見ることができます。
⑦ 健康とは「どちらかを強くすること」ではなく調和すること
易と中医学に共通しているもう一つの大きなテーマが、調和です。
陰だけが強ければよいわけでも、陽だけが強ければよいわけでもありません。
異なる働きが互いに関わり、バランスを保っていることが大切です。
本書では、『周易』の中和・平衡・協調といった思想が、中医学の理論や治療観にも深く関係していると説明されています。
健康とは「強くする」ことだけではなく、偏りを整え、全体を調和させていくこと。
これは東洋医学を考えるうえで、とても重要な視点です。
『周易と中医学』を読むと、東洋医学の背景が見えてくる
今回参考にした『周易と中医学』では、『周易』と中医学との関係を、陰陽、五行、気化、臓腑、経絡、循環、全体観、調和など、さまざまな角度から論じています。
専門書なので決して簡単な内容ではありませんが、東洋医学を学んでいる方にとっては、「なぜ中医学ではこのように身体を見るのか」という背景を考えるきっかけになる本です。
私自身、指圧や鍼灸、経絡、中医学を学んでいく中で、その奥にある思想を知りたいという気持ちが強くなっていきました。
その先をたどっていくと、易という世界につながっていきます。
易を学ぶと、東洋医学の見え方が変わる
易は、未来を当てるためだけのものではありません。
陰と陽。
変化と循環。
部分と全体。
自然と人間。
そして、偏りではなく調和を見ること。
こうした考え方を知ると、中医学や東洋医学が、単なる治療技術ではなく、一つの人間観・自然観の上に成り立っていることが見えてきます。
私が気学や易を学ぶ理由の一つも、ここにあります。
治療技術だけでなく、その背景にある「人間とは何か」「自然の中でどう生きるのか」という思想まで学ぶことで、東洋医学の世界はさらに奥深くなっていきます。
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